2020年5月「安否確認」その2
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イコライザーアンプが無事だと分かったのでいよいよ音出しをする。世の中はこの
連休もコロナ自粛で沈滞ムードだが、期待と興奮で一杯だ。時間はいくらでもある。
あせらずピックアップカートリッジのチェックから始めた。筆で針先を軽く撫でてみ
る。もし、ダンパーの樹脂類が経年劣化で硬化して、カンチレバーガ固定しているよ
うなカートリッジがあれば、そんなものを使うわけにはいかない。
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ピックアップカートリッジ筆撫でチェック
DENON DL-103・・・異状無し(3本とも)
DENON DL-103S・・・異状無し
SATIN M-21・・・異状無し
SATIN M-20・・・異状無し
FR FR-1 mk3・・・異状無し
SPECS SD-909・・・異状無し
DV KARAT23R・・・?ちょっと他とは違った感じ
EA STS455E・・・異状無し
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さて、最初に音出しに使うのはどのカートリッジにすべきか? この場合、性能、
音質ではない。何よりも「信頼性」だ。50年以上、NHKをはじめとする放送局御
用達の座を守り、未だに使用されつづけているDL-103しか考えられない。プロ
ユースとはいつ何時使用しても、確実に役目を果たせる機器のことだと思う。カメラ
であればNIKON Fシリーズがそれであろう。
ヒノキ丸棒8mmΦの断面に、目打で8mmに抜いた牛革の円盤を貼り付けたものを
トーンアーム側の接点に突っ込んで、回転させて磨く。汚れがひどいときは研磨剤の
青棒を少しだけ牛革に擦り付けてから同じ作業を行う。カートリッジシェルの接点も
同様に、磨いて、アームにカートリッジを取り付ける。プレーヤーとイコライザーア
ンプのphono入力端子を繋ぎ、出力端子とパワーアンプを繋ぐ。パワーアンプ音
量ボリュームを絞り、二つのアンプの電源を入れる。
ターンテーブルをスタートさせ、針を落とす。パワーアンプ音量ボリュームをあげ
ていくと以前と変わらない「音」が出た。テスト用のLPレコードを降ろし、ナベサ
ダのモーニングアイランドを聴いた。高音域のビリつきも感じられず、本当に以前と
変わらぬ(40年近く前)音であることを確認した。興奮に満ちた、何と楽しい自粛生
活ではないかと思った!
DL-103は、インピーダンス40Ω、0.3mVの出力なので、入力トランス
は6321Sを選択、60Ωで受ける。6321Sの一次側にはセンタータップが設
けてぁって、これを使うと30Ωで受けることもできる。昇圧比は、60Ω受けなら
約10倍、30Ω受けなら約20倍となり、6322Sの方は6Ω受けで29倍、
3Ω受けで58倍という計算になる。四通りの昇圧比が得られる訳だ。
初段のグリッドに入っている抵抗とコンデンサーもいくつかの値が選択できるのだ
が、昇圧比、負荷抵抗などの変更のためのツマミを回してもほぼ雑音「ゼロ」だ!
この事実に気づいて、本当に感動した!
使っているロータリースイッチは、東京光音電波という会社の製品で、イコライザ
ーアンプには、2回路5接点のショーティングタイプを使っている。スイッチの裏面
には製造年月が入っていて、1979.3~1982.4となっている。買った当時、
スイッチ一つで2,000円以上した。アルプス電気あたりの普及品なら2~300
円、ノーブランドの安物なら100円を切る物もあったときに、2,000円のスイ
ッチを4つも使っているのだ。スイッチだけで万札が1枚消えた訳だ。しかし使って
みると無雑音で快適だったから、微弱な信号を扱う回路には納得してこれを使った。
作製当時も「高いだけあって凄いスイッチだ。」と思っていた。
だが、凄いのはそれだけではなかった!
40年の歳月を経ても、ユーザーの期待を裏切らない!
これは本当に凄いことだと思う。スイッチ購入の時、私は店員に聴いてみた。「私
はプリアンフプに使うつもりだけれど、この高価なスイッチは、本来何に使われるの
ですか?」答えは「ああ、本来はその用途の製品ですが、メーカーの人の話によると、
その目的で購入するのは、限られたプロ用機材くらいで数も少く、今では大半が医療
機器など、失敗が許されない用途に使われているようです。」と教えてくれた。人の
命に関わる機器なのだから信頼度が要求されて当然だ。
医療用が人の命を救う用途だとすると、逆に人の命を奪う方は何かといえば、それ
は軍用だ。手持ちのパーツには軍用の物も多く、いずれも高品質で信頼度が高いよう
に思う。 歴史的に見ても、革新的な技術は「戦争」のとき生まれる。太平洋戦争で
はジュラルミン製の航空機の出現。動力はプロペラエンジンからターボジェットへと
進化、電子工学ではcm波によるレーダーの実用化、わが国の発明なら八木アンテナ
もその実用化に大きく貢献した。人の生き死に関わる機器には、信頼のおけるパーツ
が使われる。
そういえば音出しテストに使っているパワーアンプの出力管も軍用だ。
<- VT-62 シングルアンプ
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VT-62 シングルアンプ 状態:異状無し(ガリオームの難あり)
回路構成概略
初段 UZ-6C6 三極管接続
2段 6ZP1 三極管接続
IPT TANGO NC-15
出力段 VT-62 シングル(交流点火・自己バイアス)
OPT TANGO FW20-14S
以上の内、VT-62 が軍用
上の写真左端が VT-62 左から二番目がその箱。箱右上に「U.S.ARMY」とある。
右端がこのアンプに使っている整流管 5R4GY で、写真中央がその軍用版 5R4WGB 名前は民生用と変わらない。
右から二番目がその箱で、箱にも本体にも、5R4WGBの前に'JAN'とある。これが軍用の証'JOINT ARMY AND NAVY'の略。
これらのように、アメリカの軍用真空管はVT番号の物と、民生番号の頭にJANを付加した物があるようだ。
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入力ボリュームに安物を使ったのが悔やまれるが、VT-62アンプはかなり信頼
度の高いパーツで組まれていて、いきなり電源投入しても直ちに正常に動作したのは
当然のことだったのかもしれない。2~30年間使っていないから・・・と心配した
のは少し疑いすぎだったかもしれない。続けて他のピックアップカートリッジやパワ
ーアンプのチェックも続行することにした。
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ピックアップカートリッジ音出しチェック
DENON DL-103、DL-103S・・・異状無し
どちらも安定していて安心して聴いていられる。オーケストラの弦楽器群がいい感じ。
SATIN M-20、M-21・・・可
低音域はとてもいい感じだが、得意なはずの高音域が歪みっぽい。
機構的にはマグネットの狭いギャップに発電コイルの半分を挟む形で、ダンパーは固体ではなくグリスを使っている。
グリスの劣化が考えられる。
FR FR-1 mk3・・・異状無し
10Ω 0.19mv だから 30Ω で受けて 20倍に昇圧して使用。DL-103 に似た傾向。
SPECS SD-909・・・異状無し
3.5Ω 0.2mv だから 30Ω で受けて 20倍に昇圧して使用。
テストでは現時点で最優秀。特にチェンバロの高い音もクリアーに再生。低音も豊か。
DV KARAT23R・・・不安なのでテストせず。
EA STS455E・・・取り付けるシェルの空きが無くテストせず。
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STINのカートリッジの不調が惜しまれる。本来は、一番良い結果が出るはずの
2本が本来の調子ではない。既にメーカーのSATIN社は存在せず、修理に送り返
すことはできない。素人によるグリスの交換方法はあるのだろうか・・・?
次からの、パワーアンプ音出しチェックは、SD-909 採用と決定した。
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