2020年7月「アンプの修理と部品調達」その1
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5998アンプの故障原因
長い放置期間が入ってしまったから、まず、故障の詳細をもう一度確認する必要が
ある。電源を入れてDCバランスを取る。左チャンネルは可変抵抗を回しきっても釣
り合いが取れない。記憶が定かで無いので、改めて左右の5998を入れ替えてみる。
今度は右でバランスが取れていた5998のバランスがとれない。球ではなく回路だ。
すべての真空管とケーブルを取り外し、ひっくり返して底板を取る。私は「綺麗さ」
をあまり求めず配線するが、後々のメンテくらいは考える。だがその私が見てもこの
アンプの配線は汚く見づらい。このアンプの生い立ちにも関係している。
5998アンプの生い立ち
外観から見ると、どう見てもシングルアンプにしか見えない。それもそのはず、最
初はシングルアンプとして完成したのだから、当たり前の話だ。シングルアンプとし
ては、最終的に6SN7を使ったSRPP回路2段で6B4Gをドライブしていた。
だが45または2A3シングルアンプに6.3V電源を追加したことでこのアンプの
存在価値は無くなり、5998という双三極出力管を知って、AB級ppアンプを作
ることにした。チョーク以外の出力トランスと電源トランスを換装。
当時得体の知れなかった真空管だったから、最初B電圧は250V、750Ωのカ
ソード抵抗(2A3を軽く使うときの規格)で完成。(5998の場合は830Ωで50mA)
5998にはもっと余力があることが分かり、最初B電圧は300V以上、固定バ
イアスで動かしてみた。しばらく(2~3ヶ月)は良い音で鳴っていたが歪みっぽさを
感じるようになった。出力トランスの推奨値によると、DCバランスは3mA以内と
なっていた。5998は、6AS7同様に電源レギュレーター管であり、やはりバラ
ツキが多いのが特徴だからと、もう一度、自己バイアスに戻してみた。
だが、問題は解決しない。固定バイアスが悪い訳ではなかった。そしてそのまま、
30年の放置期間に入ってしまった。
原因究明
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固定バイアスに戻す
不安定なのは、真空管のバラツキでも固定バイアスのせいでもなく、回路のどこかに問題があるのだから、
まずは出力段を固定バイアスに戻すことにした。カソード抵抗などを外し、真空管ソケットを裸にする。
写真1 写真2
写真1は、出力段のカソード抵抗、コンデンサを外す作業の途中経過。緑色のホーロー抵抗600Ωからの無
駄な放熱だけでもかなりのものだ。写真2はクリーンになった出力段。ヒーター配線のみそのままだが。
電源トランス二次側だが、320V,280V,70V,0V,280V,320V となっていて、0Vを接地、320Vをそれぞ
れ整流管の2つのプレートに繋いでいる。BIAS用の、マイナス電源を得るためには 70Vタップを使う
しかないが、ブリッジダイオードは使えない。
写真3 手持ちのダイオード
一番右がブリッジダイオード。独立した70V巻線ならこれがベストだが今回は使えない。真ん中二つのど
ちらかを使うべきなのははっきりしているが、どちらも素性が分からない。左から2番目は、IR 100 7H
と文字が見えるが、これをヒントに規格表を探すが見つからない。右2番目に至っては何の文字も入っていな
い。外形形状と寸法で探しても類似のものが多数あり特定できない。結局左端の東芝1S2711を使うこと
にした。
東芝 ファーストリカバリーダイオード 1S2711 / 1,500V 1.5A
ものすごいオーバースペックだ。
立ちラグを追加。ダイオードとセメント抵抗を取り付け、抵抗の両側に、不要になった自己バイアス用のバ
イパスコンデンサ160V100μFを取り付け、プラス側をアース母線にハンダ付けして負電源完成。
出力部の配線を固定バイアスに変更した後、念のために電圧チェックをする。整流管の負担を最小限にする
ため、電圧増幅部はシリコン整流の別電源にしてある。だから整流管と出力管は挿さず、4本の6SN7のみ
挿してチェックした。まず、可変抵抗で左右のBIAS量を最大にセット。DCバランス用20Kの可変抵抗
を中点付近にセット。電源を入れて要所の電圧を計測。プレート電圧はすべて正常。
だが、グリッド電圧が一ヶ所異常で、-60V程しかない。どこからどこへ流れているのか? 電源を落とし
て、グリッド回路とアース間の抵抗値を計測。50K弱で正常値。であれば-80V以上でなければおかしい。
再び電源を入れて電圧チェック。やはり60V程しか出ていない。こんな単純な回路なのに、どこでリークが
起きているのかが分からない。グリッド周りの抵抗を一度取り外し、一本ずつ抵抗値を計測。ラグとシャーシ
の絶縁を確認したり、何をやっても電源を入れると60V程しか出てくれない。3~4日が空費された。
こんな時必要なのは、自己肯定感とは真逆な心だ。「悪いのは絶対俺だ。必ず俺の考えのどこかが間違って
いる。俺は絶対何かを見落としている。」と自分を疑い、否定しなければ活路は見つからない。改めて回路図
を見る。出力管のグリッドに繋がっているのはBIAS関連の抵抗だけではなかった。「直流は流れないから
ここから先は考慮しなくて良い。」と思い込んでいたが、0.22μFのカップリングコンデンサが怪しい。
新品と交換する。下の写真で上方やや左の、青い三角印が付いているのが新品。
交換後、電源を入れると4箇所共、-81~2Vと正常! 出力管、整流管を挿して電源を入れなおす。BI
ASを浅くしていき、70mA程度に合わせる。次にDCバランスをとる。左右ともゼロにセットできた!
オシレーターとオシロスコープを繋ぎ、矩形波を見る。
440Hz
両肩の角が尖っているし、頂上はほぼ平坦。良好。わずかに右傾斜があるから100Hz以下でやや減衰か。
4.4KHz
左肩の角が少し丸くなっているから高域が減衰か。でも十分に綺麗な矩形波に見える。
修理を終えれば十分な性能が出せそうなことが分かった。だが修理はまだ終わっていない。これからだ。
やっと故障の原因をつきとめたに過ぎない。
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原因はつきとめたがその結果、手持ちのパーツだけでは修理不可能であることも
はっきりした。そもそもカップリングコンデンサがなぜリークを起こしたか? こ
こしばらくたくさん目にしてきた経年劣化だけではない。アンプの生い立ちとも関
係する設計ミスもあった。5998を使うに当たって、2A3二本を一つのガラス
管に入れたものと考えてよい・・・くらいの情報しかなかった。だから2A3で軽
めのオペレーションであるB電圧250V、カソード抵抗750Ωを採用した。
その時点でカップリングコンデンサの耐圧は250Vで良かったので、これを用い
た訳だ。そのうち雑誌で「5998はもっと出せるぞ。」という内容の記事が何例
か紹介され、最終的にドライバ段プレート電圧300V、出力段BIAS電圧-70V
のオペレーションに格上げされたのだから、耐圧250Vのコンデンサに370V
かけていたわけだ。これで無事に済むはずがない。耐圧400Vでもギリギリだ。
耐圧630Vの手持ちは無い。いよいよ秋葉原へ買出しに行くしかなくなった。
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